no title (3)

Ⅰ no title (3)での考察対象

 いくつかセミナーやシンポジウムに参加すると、質疑応答の際になされる質問として多いのが、「日本による法整備支援の特色は何か?」という問いである。つまり、法整備支援は様々な国や機関がドナーとなり行われているが、日本が法整備支援を行うということにどのような意義があるのかということである。

 上記の問いに対しては、「自国の法制度を押し付けるのではなく、相手国に寄り添いながら、共に法制度を作り上げていくというスタンスが日本の法整備支援の特色である」という回答がなされるのが一般的であると感じる。

 ところで、松尾教授は、人材育成と制度作りをワンセットにした漸進的な法制度整備支援を「プロセス志向的」な法整備支援として、『開発法学の基礎理論』やシンポジウムでの報告等で強調してその重要性を説いておられる。

 「プロセス志向的」な法整備支援とは何か。疑問に思ったまま、これまで放置してきたため、この機会に自分の中での一応の回答を導きたいと考えた。この点については、「法の継受とは何か」という(相手国側の、もしくは19世紀の日本の)視点に移したうえでその内容を考察し、その流れで「プロセス志向的」な法整備支援の内容を明らかにするという思考方法が良いと考えるため以下ではその流れに沿って考察する。

 

Ⅱ 法の継受とは

 法の継受とは何か。以下は、内田教授の「法学の誕生」46頁、47頁を参考にしている。

 法の継受とは、法典の継受のみを意味しない。これは狭義の方の継受として、法の継受の一部をなすにすぎない。法の継受という場合には、法学をその国の思考様式というフィルターを通して受容するというプロセスが不可欠である。つまり、(広義の)法の継受とは、法典の継受(これは、外国の法典をそのまま自国法にする場合に限られない)及び法学の受容をいう。

 

Ⅲ 「プロセス志向的」の内容

 上記を前提に、視点を支援側に戻すと、法整備支援は法の継受の支援ということができると解することから、「プロセス志向的」な法整備支援とは、上記で述べた(広義の)法の継受の一要素である法学の受容、つまり法学教育等の人材育成を不可欠の要素とする法整備支援とその意味を確定できると思われる。

 つまり、「プロセス志向的」という中には、寄り添いや相手の尊重といった意味はないというべきだろう。私は、これまで寄り添いや相手の尊重という「法整備協力」というに近づく要素を「プロセス志向的」という文言の中に入れ込んで理解していたがこの理解は修正した方がよさそうである。というより、上記のようにその意味を限定した方が法の継受、法整備支援あるいは開発法学の議論の際に明確になると感じる。

 

Ⅳ 「プロセス志向的」な法整備支援は特色になり得るか

 それはどういうことか。「プロセス志向的」な法整備支援は日本の法整備支援の特色か。これまでの整理に従うとそうではない。「プロセス志向」は法整備支援の不可欠の要素であるということができる。つまり、法の継受は狭義と広義の区別ができたが、法整備支援においてはこのような区別はできない。狭義の法の継受の支援つまり法典の継受の支援は、法整備支援における「支援」とはいえないというべきであろう。

 これに対し、シンポジウム等でよく言われる「寄り添い、尊重」は日本の法整備支援の特色になりうる要素であろう(もっとも、他ドナーが寄り沿わず、尊重していないのかは謎だが)。

 

Ⅴ おわりに

 以上のように、これまで個人的によく分からなかった「プロセス志向的」という文言について明らかにすることを試みた。プロセス志向的な制度作りは法制度に限らず、様々な場面で重要な要素となる考え方だろう。どのような場面でもルールの構築には「協力」が必要なのだと感じる。

 

                    早朝の自宅にて、犬の鳴き声を聴きながら